はしかや百日咳のような感染症の原因となるウイルスや細菌または菌が作り出す毒素の力を弱めて予防接種液(ワクチン)をつくり、それを体に接種して、その病気に対する抵抗力(免疫)をつくることを、予防接種といいます。
「予防接種」に使う薬液のことを「ワクチン」といいます。
すべての病気に対してワクチンがつくれるわけではなく、細菌やウイルスなどの性質によってできないものもあります。
予防接種で使うワクチンには、生ワクチン、不活化ワクチンの2種類があります。
■生ワクチン
生きた細菌やウイルスの毒性を弱めたもので、これを接種することによってその病気にかかった場合と同じように抵抗力(免疫)ができるものです。 定期の予防接種で使用するワクチンでは、ポリオ、麻しん(はしか)、風しん、BCGがこれにあたります。 接種後から体内で毒性を弱めた細菌やウイルスの増殖がはじまりますから、それぞれのワクチンの性質に応じて、発熱や発しんの軽い症状が出ることがあります。 十分な抵抗力(免疫)ができるのに約1ヵ月が必要です。 |
■不活化ワクチン
細菌やウイルスを殺し抵抗力(免疫)をつくるのに必要な成分を取り出しで毒性をなくしてつくったものです。 定期の予防接種で使用するワクチンでは、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)、日本脳炎がこれにあたります。 この場合、体内で細菌やウイルスは増殖しませんので、何回か接種し、抵抗力(免疫)ができます。 一定の間隔で2〜3回接種し、最小限必要な抵抗力(免疫)ができたあと、約1年後に追加接種をして十分な抵抗力(免疫)ができあがります。 しかし、しばらくすると少しずつ抵抗力(免疫)が減ってしましますので、長期に抵抗力(免疫)を保つためには、それぞれのワクチンの性質に応じて一定の間隔で追加接種が必要です。 |
予防接種と聞くと副反応が心配と消極的になっておられる方もいるようですが、現在日本で使用しているワクチンは、副反応の頻度が少ないものです。
しかし人間の体の性質は一人一人違いますから、副反応の出る人もでてきます。
程度はいろいろですが、大切なことはかかりつけの先生に、体調をよく診ていただき、接種をしていただくのが一番よいと思います。
◆ポリオ(急性灰白髄炎) 『小児マヒ』と呼ばれ、わが国でも1960年代前半までは流行を繰り返していましたが、現在は、予防接種の効果で国内での自然感染は報告されていません。 しかし、現在でもインド、アフリカなどではポリオの流行がありますから、これらの地域で日本人がポリオに感染したり、日本にポリオウイルスが入ってくる可能性があります。 ポリオウイルスはヒトからヒトへ感染します。 感染したヒトの便中に排泄されたウイルスが口から入りのど又は腸に感染します。 感染したウイルスは3〜35日(平均7〜14日)腸の中で増えます。 しかし、ほとんどの例は、症状が出ず、一生抵抗力(免疫)が得られます。 症状が出る場合、ウイルスが血液を介して脳・脊髄へ感染し、麻痺を起こすことがあります(麻痺の発生率は1,000〜2,000人に1人)。 ポリオウイルスが感染すると100人中5〜10人は、カゼ様の症状を呈し、発熱を認め、続いて頭痛、嘔吐があらわれ麻痺を起こします。 一部の人には、その麻痺が永久に残ります。呼吸困難により死亡することもあります。 ポリオワクチン(経口生ワクチン) T、U、V型の3つのタイプのポリオワクチンウイルスが混ざっています。 飲むことによりそれぞれの型に対する抵抗力(免疫)ができます。 しかし1回飲むだけでは1つか2つの型だけに対する抵抗力(免疫)しかできないこともありますので、2回の飲むこと(1回目と2回目の接種の間隔には6週間以上の間隔が必要です。)により1回目に抵抗力(免疫)ができなかった型に対する抵抗力(免疫)ができて予防体制が出来上がります。 ひどい下痢をしていると、ワクチンの効果が弱まるので延期しましょう。 【副反応】 ワクチンに使われているウイルスは弱毒化されており安全ですが、服用後体内で増えますので、450万人以上の投与に1人程度の極めてまれな頻度ですが、ウイルスが脳脊髄に達して麻痺を生ずることがあります。 また予防接種を受けた人からは接種後15〜37日間(平均26日間)にわたってウイルスが便中に排泄されます。 このウイルスがワクチンを受けていない人などのポリオウイルスに対する免疫をもっていない者または抗体価の低い者に感染して、麻痺を起こすことがあります。 その頻度は一定していませんが550万人に1人程度でまれなものです。 ポリオワクチンウイルスによる2次感染により健康被害を受けた方のために被害救済事業があります。 |
◆ジフテリア ジフテリア菌の飛沫感染で起こります。 1981年にジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチンが導入され、現在では患者発生数は年間1〜2名程度ですが、ジフテリアは感染しても10%程度の人が症状が出るだけで、残りの人は症状が出ず、保菌者となり、その人を通じて感染することもあります。 感染は主にのどですが、鼻にも感染します。 症状は高熱、のどの痛み、犬吠様のせき、嘔吐などで、偽膜と呼ばれる膜ができて窒息死することがある恐ろしい病気です。 発病2〜3週間後には菌の出す毒素によって心筋障害や神経麻痺を起こすことがありますので、注意が必要です。 ◆百日咳 百日咳菌の飛沫感染で起こります。 1956年から百日咳ワクチンの接種がはじまって以来、患者数は減少してきています。 百日咳は普通のカゼのような症状ではじまります。続いてせきがひどくなり、顔を真っ赤にして連続的にせき込むようになります。 せきのあと急に息を吸い込むので、笛を吹くような音が出ます。 熱は出ません。 乳幼児はせきで呼吸ができず、くちびるが青くなったり(チアノーゼ)、けいれんが起きることがあります。 肺炎や脳症などの重い合併症をおこします。 乳児では命を落とすこともあります。 ◆破傷風 破傷風菌はヒトからヒトへ感染するのではなく、土の中にひそんでいて、傷口からヒトへ感染します。 傷口から菌が入り体内で増えますと、菌の出す毒素のために、口が開かなくなったり、けいれんを起こしたり、死亡することもあります。 患者の半数は自分や周りの人ではでは気づかない程度の軽い刺し傷が原因です。 日本中どこでも土中に菌はいますので、感染する機会は常にあります。 また、お母さんが抵抗力(免疫)をもっていれば出産時に新生児が破傷風にかかるのを防ぐことができます。 DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)三種混合ワクチン T期として初回接種3回(3〜8週間までの間隔をあけて)、追加接種は1回(初回接種3回終了後おおむね1年を経過した時期)行います。 また、U期として11歳時DT(ジフテリア・破傷風)二種混合ワクチンで接種を1回行います。 回数が多いので、接種もれに注意しましょう。 確実な免疫をつくるには、決められたとおりに接種を受けることが大切ですが、万一間隔があいてしまった場合では、市町村とかかりつけの医師に相談ください。 【副反応】 1981年に百日咳ワクチンが改良されて以来、日本のワクチンは副反応の少ない安全なワクチンになっています。現 在の副反応は、注射部位の発赤、腫脹(はれ)、硬結(しこり)などの局所反応が主で、頻度に程度の差はありますが、初回接種1回目のあと、7日目までに14.0%、追加接種後7日間までに41.5%です。 なお、硬結(しこり)は少しずつ小さくなりますが、数ヶ月残ることがあります。 特に過敏な子で肘をこえて上腕全体がはれた例が少数ありますが、これも湿布などで軽快しています。 通常高熱は出ませんが、接種後24時間以内に37.5℃以上になった子が1.4%あります。 重い副反応はなくても、機嫌が悪くなったり、はれが目立つときなどには医師にご相談ください。 |
◆麻しん(はしか) 麻しんウイルスの空気感染によって起こります。 感染力が強く、予防接種を受けないと、多くの人がかかる病気です。 発熱、せき、鼻汁、めやに、発しんを主症状とします。 最初3〜4日間は38℃前後の熱で、一時おさまりかけたかと思うとまた39〜40℃の高熱と発しんが出てきます。 高熱は3〜4日で解熱し、次第に発しんも消失します。しばらく色素沈着が残ります。 主な合併症としては、気管支炎、肺炎、中耳炎、脳炎があります。 患者100人中、中耳炎は7〜9人、肺炎は1〜6人に合併します。 脳炎は1,000人に2人の割合で発生がみられます。 また、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という慢性に経過する脳炎は約5万例に1例発生します。 また、麻しん(はしか)にかかった人は数千人に1人の割合で死亡します。 わが国では現在でも年間50人の子がはしかで命を落としています。 麻しん(はしか)ワクチン(生ワクチン) 麻しんウイルスを弱毒化してつくったワクチンです。 1歳から2歳の間に麻しんかかる子どもが多くなっていますので、1歳になったらすぐに予防接種を受けるように努めましょう。 ガンマグロブリンの注射を受けたことのある人は、3ヶ月以上過ぎてから、川崎病などでガンマグロブリン大量療法を受けたことがある人は、6ヶ月以上過ぎてから麻しんの予防接種を受けて下さい(ガンマグロブリンは、血液製剤の一種でA型肝炎等の感染症の予防目的や重症の感染症の治療目的などで注射することがあります。)。 【副反応】 麻しんウイルスは生ワクチンのため、ウイルスが体内で増え、接種後5〜14日までに、5.3%に37.5℃以上38.4℃未満の発熱、8.1%に38.5℃以上の発熱、5,9%に麻しん様の発しんが認められます。 通常は1〜2日で消失します。 また、まれに熱性けいれんが起こります。 ごくまれ(100〜150万人に1人以下)に脳炎の発生も報告されています。 |
◆風しん 風しんウイルスの飛沫感染によって起こります。 潜伏期間は2〜3週間です。 軽いかぜ症状ではじまり、発しん、発熱、後頸部リンパ節腫脹などが主症状です。 そのほか、眼球結膜の充血もみられます。 発しんも熱も約3日間でなおるので「三日ばしか」とも呼ばることもあります。 合併症として、関節痛、血小板減少性紫斑病、脳炎などが報告されています。 血小板減少性紫斑病は患者3,000人に1人、脳炎は患者6,000人に1人くらいです。 大人になってからかかると重症になります。 妊婦が妊娠早期にかかりますと、先天性風しん症候群と呼ばれる病気により心臓病、白内障、聴力障害など障害を持った児が生まれる可能性が高くなります。 風しん(三日ばしか)ワクチン(生ワクチン) 風しんウイルスを弱毒化してつくったワクチンです。 2〜3歳になると、かかる子どもが急に増えますので、麻しんワクチンが終わった後続けて受けるように努めましょう。 男の子も女の子も受けることになります。 お母さんが次の子どもを妊娠しているときにお子さんが予防接種を受けても、接種を受けたお子さんからお母さんに風しんウイルスが感染した例はありませんので、心配はありません。 【副反応】 風しんワクチンも生ワクチンですから、麻しん(はしか)と同じようにウイルスが体内で増えます。 小児では接種後5〜14日までに1.9%に37.5℃以上38.4℃未満の発熱、2.6%に38.5℃以上の発熱、1.3%に発しん、0.6%にリンパ節腫脹が認められます。 予防接種を受けた人から周りの人に感染することはありません。 |
◆日本脳炎 日本脳炎ウイルスの感染で起こります。 ヒトから直接ではなくブタの体内で増えたウイルスが蚊によって媒介され感染します。 7〜10日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状を示す急性脳炎になります。 流行は西日本地域が中心ですが、ウイルスは北海道など一部を除く日本全体に分布しています。 この地域で飼育されているブタにおける日本脳炎の流行は毎年6月から10月まで続きますが、この間に80%以上のブタが感染しています。 以前は小児、学童に発生していましたが、予防接種の普及などで減少し、最近では予防接種を受けていない高齢者を中心に患者が発生しています。 感染者のうち1,000〜5,000人に1人が脳炎を発症します。 脳炎のほか髄膜炎や夏かぜ様の症状で終わる人もいます。 脳炎にかかった時の死亡率は約15%ですが、神経の後遺症を残す人が約50%あります。 日本脳炎ワクチン(不活化ワクチン) 日本脳炎ウイルスを殺し(不活化)、精製したものです。 北海道を除く日本全国には日本脳炎ウイルスに感染したブタとウイルスを運ぶ蚊(コガタアカイエカ)がたくさんいます。 3歳を過ぎたら受けるように努めましょう。 確実に抵抗力(免疫)をつくるには、決められたとおりに受けることが大切です。 【副反応】 副反応としては2日以内に37.5℃以上の発熱が1.5%に認められます。 接種局所の発赤・腫脹(はれ)は予防接種を受けた者100人中10人程度です。 発しんも1.1%にみられ、圧痛もまれにみられます。 ごくまれ(100万人に1人程度)にアレルギー性脳脊髄炎の発生も報告されています。 |
◆結核 結核菌の感染で起こります。 わが国の結核患者はかなり減少しましたが、まだ3万人を超える患者が毎年発生しており、大人から子どもまで感染することも少なくありません。 また、結核に対する抵抗力はお母さんからもらうことができませんので、生まれたばかりの赤ちゃんもかかる心配があります。 乳幼児は結核に対する抵抗力が弱いので、全身性の結核症にかかったり、結核泥髄膜炎になることもあり、思い後遺症を残す可能性があります。 BCGワクチン BCGは牛型結核菌を弱毒化してつくったワクチンです。 BCGの接種方法は、管針法といってスタンプ方式で上腕の2ヵ所に押しつけて接種します。 それ以外の場所に接種するとケロイドなどの副反応が出ることがありますので、絶対に避けなければなりません。 接種したところは、日陰で乾燥させてください。10分程度で乾きます。 【副反応】 接種後10日頃に接種局所に赤いポツポツができ、一部に小さなうみができることがあります。 この反応は、接種後4週間頃に最も強くなりますが、その後は、かさぶたができて接種後3ヵ月までにはなおり、小さなきずあとが残るだけになります。 これは異常反応ではなく、BCG接種により抵抗力(免疫)がついた証拠です。 包帯をしたりバンソウコウをはったりしないで、そのまま普通に清潔を保ってください。 自然になおります。 ただし、接種後3ヵ月を過ぎても接種のあとがジクジクしているようなときは医師にご相談ください。 副反応としては、接種をした側のわきの下のリンパ節がまれに腫れることがあります。 通常、放置して様子をみてかまいませんが、ときにただれたり、大変大きく腫れたり、まれに化膿して自然にやぶれてうみが出ることがあります。 その場合には医師にご相談ください。 また、お子さんが結核にかかったことがある場合は、接種後10日以内に接種局所の発赤・腫脹及び接種局所の化膿等を来たし、通常2週間から4週間後に消炎、瘢痕化し、治癒する一連の反応が起こることがあり、これをコッホ現象といいます。 コッホ現象と思われる反応がお子さんに見られた場合は、接種を受けた医療機関を受診させてください。 この場合、お子さんに結核をうつした可能性のあるご家族の方々も医療機関を受診するようにしましょう。 |
◆一般的な注意◆
予防接種は体調のよい時に受けるのが原則です。
日頃から保護者の皆さんはお子さんの体質、体調など健康状態によく気を配ってください。
そして何か気にかかることがあれば、あらかじめかかりつけの医師や保健所、市町村担当課にご相談ください。
安全に予防接種を受けられるよう、保護者の皆さんは、以下を注意の上、当日に予防接種を受けられるかどうかご判断ください。
◆予防接種を受けることができない者◆
◆予防接種を受ける判断を行う際して注意の必要な者◆
以下に該当すると思われる人は、主治医がいる場合には必ず前もって診ていただいて、予防接種を受けるかどうかご判断いただき、受ける場合にはその医師のところで行うか、あるいは診断書又は意見書をもらってから予防接種に行きましょう。