平成30年12月14日 更新

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

平成25年1月30日、重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: SFTS) の、日本国内での初めての症例(山口県内で平成24年(2012年)秋に亡くなられた成人)が確認されました。 その後、他の県でも患者が確認され、感染症法上の四類感染症に指定されました(平成25年3月4日)。

重症熱性血小板減少症候群とは

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、近年、中国の中央部等7省で流行が見られている疾患で、 2011年に初めて原因ウイルス(SFTSウイルス、ブニヤウイルス科フレボウイルス属)が 特定された新しい感染症です。症状は、発熱と消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢など)が 中心で、血液検査所見として血小板減少や白血球減少などがみられます。現在のところ、 有効な抗ウイルス薬やワクチンはありません。 人はウイルスを持ったマダニに刺されて感染します。日本国内では、これまでに複数のマダニ種からSFTSウイルスの遺伝子が検出されており、ウイルス保有率は地域や季節によりますが0〜数%です。 日本においては、2014-16年の感染症発生動向調査では、届出時点の情報で178名の報告のうち35名が死亡しています。日本での致命率は約20%です。 (参考:致命率(case fatality rate)とは、ある特定の病気にかかったと診断され、報告された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合を示したものです。)

重症熱性血小板減少症候群とは

1.全国の状況(情報の更新は平成27年12月までとなっています)
(1)国内での発生状況
平成27年の届出です。 平成25年以前の52例はこちら、 平成26年の61例はこちらをご覧ください。 「転帰」は、原則として公表日の状況を記述しており、 最終的な転帰ではありません。
県(県内累計)公表日年齢性別転帰発症時期または死亡時期
114大分県(3)H27.2.1660歳代女性生存平成27年1月中旬
115鹿児島県(10)H27.4.2870歳代女性死亡平成27年4月中旬
116広島県(9)H27.4.3080歳代女性生存-
117広島県(10)H27.5.880歳代女性死亡平成27年4月下旬
118宮崎県(20)H27.5.860歳代男性死亡平成27年4月下旬
119宮崎県(21)H27.5.850歳代女性生存平成27年4月中旬
120愛媛県(21)H27.5.1550歳代男性生存平成27年4月中旬
121福岡県(1)H27.5.2030歳代女性生存平成27年5月中旬
122高知県(15)H27.5.2680歳代女性生存平成27年4月下旬
123宮崎県(22)H27.5.2670歳代女性生存平成27年5月上旬
124大分県(4)H27.6.1-生存平成27年5月上旬
125大分県(5)H27.6.1-生存平成27年5月中旬
126高知県(16)H27.6.350歳代女性生存平成27年4月中旬
127宮崎県(23)H27.6.460歳代女性生存平成27年5月上旬
128広島県(11)H27.6.470歳代女性死亡平成27年5月下旬
129大分県(6)H27.6.580歳代男性死亡平成27年5月下旬
130山口県(9)H27.6.1080歳代男性生存平成27年5月下旬
131広島県(12)H27.6.1070歳代女性生存平成27年5月下旬
132福岡県(2)H27.6.1110歳未満女児生存平成27年5月下旬
133山口県(10)H27.6.1570歳代女性生存平成27年5月下旬
134山口県(11)H27.6.1580歳代男性生存平成27年6月上旬
135鹿児島県(11)H27.6.1260歳代女性生存平成27年5月上旬
136三重県(1)H27.6.1670歳代女性生存-
137広島県(13)H27.6.1770歳代男性不明-
138京都府(1)H27.6.2380歳女性生存平成27年6月中旬
139福岡県(3)H27.6.2680歳代女性死亡平成27年6月中旬
140福岡県(4)H27.6.3088歳女性死亡平成27年6月中旬
141徳島県(10)H27.7.270歳代女性生存平成27年5月下旬
142香川県(1)H27.7.270歳代男性生存平成27年6月中旬
143広島県(14)H27.7.2280歳代男性生存平成27年7月上旬
144広島県(15)H27.7.2270歳代女性--
145鹿児島県(12)H27.7.3060歳代男性生存平成27年7月上旬
146鹿児島県(13)H27.7.3080歳代女性生存平成27年6月下旬
147山口県(12)H27.8.1260歳代女性生存平成27年7月下旬
148三重県(2)H27.8.1170歳代女性生存-
149熊本県(6)H27.8.1170歳代女性生存平成27年7月下旬
150和歌山県(3)H27.8.1370歳代男性生存平成27年7月下旬
151福岡県(5)H27.8.14---
152山口県(13)H27.8.2470歳代男性生存平成27年7月下旬
153宮崎県(24)H27.8.2080歳代男性生存平成27年8月上旬
154長崎県(8)H27.8.2770歳代女性生存平成27年8月上旬
155広島県(16)H27.8.2070歳代女性生存平成27年8月上旬
156広島県(17)H27.9.360歳代男性生存平成27年8月下旬
157石川県(1)H27.9.360歳代男性死亡平成27年8月下旬
158徳島県(11)H27.9.870歳代男性死亡平成27年8月下旬
159鹿児島県(14)H27.9.1450歳代男性生存平成27年8月下旬
160山口県(14)H27.9.1760歳代男性生存平成27年9月上旬
161徳島県(12)H27.9.1670歳代男性生存平成27年8月下旬
162福岡県(6)H27.9.1930歳代男性生存平成27年8月中旬
163宮崎県(25)H27.10.830歳代男性生存平成27年9月上旬
164石川県(2)H27.10.660歳代女性生存平成27年9月中旬
165長崎県(9)H27.10.2280歳代男性生存平成27年9月ごろ
166宮崎県(26)H27.10.2960歳代男性生存平成27年9月下旬
167福岡県(7)H27.10.30---
168広島県(18)H27.11.1180歳代男性--
169宮崎県(27)H27.11.1280歳代男性死亡平成27年10月下旬
170高知県(17)H27.11.1870歳代男性生存平成27年10月上旬
171宮崎県(28)H27.12.1060歳代女性生存平成27年11月下旬
172鹿児島県(15)H27.12.1480歳代男性死亡平成27年11月下旬
173京都府(2)H27.12.1480歳代女性生存平成27年11月中旬

(2)県毎の集計
県名生存死亡不明備考
石川県112
京都府22
三重県22
和歌山県33
兵庫県112
島根県11
岡山県314
広島県123318
山口県9514
徳島県8412
香川県11
愛媛県13821
高知県14317
福岡県3227
佐賀県123
長崎県729
熊本県426
大分県516
宮崎県19928
鹿児島県11415生存のうち1人はその後死亡。
120485173

map

これまでのところ、重症熱性血小板減少症候群は、西日本を中心に発生していますが、 国(厚生労働省研究班)が実施している調査では、患者発生のない地域でも、 マダニの調査や動物(シカ、イノシシ、犬)の抗体調査により、 SFTSウイルスの存在が確認されています。 (参考文献6参考文献9こちらのページ(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布状況) で地図に表していますのでご覧ください。

(3)年齢集計
graph

(4)月別集計
患者の発症月別の集計です。夏、秋としているものは月別不明もの。 発症月が不明の場合は死亡月で計上しています。
graph

参考文献5によると、 ウイルス遺伝子の分析結果からは、中国のウイルスとは遺伝子レベルで若干異なっており、 患者は国内で感染したものと考えられました。

2.山口県の状況(平成30年10月までの状況です)
(1)年齢集計
山口県で報告された患者の年齢階級別の集計です。 graph

(2)年齢別死亡率
山口県で報告された患者の年齢別の死亡率です。 graph

(3)月別集計
山口県で報告された患者の発症月別の集計です。 graph

3.中国の状況
参考文献 1 によると、SFTSと診断された中国中央部・東北部の2010年の患者(154名)は、 年齢層は中高年で(39歳〜83歳)、女性86名、男性68名でした。 ほとんどの患者(150名/154名)が森林・丘陵地に住む農業従事者でした。 発症時期は、多くが5月〜7月(148名/154名)でした。

感染源と感染予防

SFTSウイルスは、国(厚生労働省研究班)の調査で、フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、 オオトゲチマダニ、キチマダニ及びタカサゴキララマダニからSFTSウイルス遺伝子が検出されており、 今のところ患者が報告されていない地域でもSFTSウイルス保有マダニが確認されています (参考文献6)。 中国では、フタトゲチマダニ、オウシマダニからウイルスが検出されています (参考文献1)。

SFTSにかからないためには、マダニに刺されないように注意することが必要です。 マダニの生息するような場所(草むらや藪など)に行く場合には なるべく肌を露出しない服装とし、後で、マダニが体に付着、あるいは マダニに刺されていないかどうかを確認してください。 「マダニ対策、今できること」 (国立感染症研究所)は、マダニ対策について、イラストを用いてわかりやすく説明しています。

マダニは野外に生息する大型のダニです。 屋内に生息するダニ(コナダニ類・チリダニ類など)はこの疾患とは関係ありません。

マダニからの感染のほかには、患者の血液等に直接接触したことによる感染が報告されています (参考文献4)。 今のところ国内では、二次感染事例はありませんが、患者の血液等体液や排泄物は、 感染性があるものとして、十分な注意が必要です。 (参考文献7)。

最近の研究で、SFTSウイルスに感染し、発症している野生動物やネコ、イヌなどの動物の血液からSFTSウイルスが検出されています。このことは、SFTSウイルス感染している動物の血液などの体液に直接触れた場合、SFTSウイルスに感染することも否定できません。

なお、ヒトのSFTSで認められる症状を呈していたネコに咬まれたヒトがSFTSを発症し、亡くなられた事例が確認されていますが、そのネコから咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染したかどうかは明らかではありません。また、動物由来食品(肉や乳など)を食べたことによって、ヒトがSFTSウイルスに感染したという事例の報告はありません。

健康なネコなどからヒトがSFTSウイルスに感染することはないと考えられています。室内のみで飼育されているネコについては、SFTSウイルスに感染する心配はありません。 不用意に体調不良のネコ(飼育されているネコを除く)や野生動物との接触は避けて下さい。

マダニに刺された場合

マダニ類の多くは、ヒトや動物に取りつくと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日以上)吸血しますが、咬まれたことに気がつかない場合も多いと言われています。 マダニが皮膚に吸着しているのを発見した場合は、できるだけ医療機関(皮膚科) で除去してもらってください。無理に取ろうとして虫体を押しつぶした場合、 マダニの体液が人の体内に入り感染の危険性が増加します。 また、マダニの一部が皮膚内に残ると、化膿することがあります。

マダニに刺された場合は、その後の体調に注意してください。 SFTSの潜伏期間は6日〜2週間程度だといわれていますので、 2週間後くらいまでに発熱等の症状があらわれた場合は、医療機関を受診してください。

関係リンク

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について 厚生労働省
 ・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 国立感染症研究所
SFTSについて医療関係者が知っておきたいこと 国際感染症センター(国立国際医療研究センター) 動物由来感染症(ズーノーシス)って何だろう (県生活衛生課)

参考文献

1.Fever with Thrombocytopenia Associated with a Novel Bunyavirus in China Xue-Jie Yu, et al. N Engl J Med 364:1523-1532, 2011
2.Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus, Shandong Province, China Li Zhao, et al. Emerging Infectious Diseases 18 (6), 2012
3.The Ecology, Genetic Diversity, and Phylogeny of Huaiyangshan Virus in China Zhang YZ, et al., J Virol 86: 2864-2868, 2012
4.A Family Cluster of Infections by a Newly Recognized Bunyavirus in Eastern China, 2007: Further Evidence of Person-to-Person Transmission Chang-jun Bao, et al. Clin Infect Dis. 53 (12): 1208-1214, 2011
5.IASR 国内で確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者8名の概要(2013年3月13日現在)
6.IASR 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第一報)(2013.8.29)
7.IASR 山口県の一医療機関における重症熱性血小板減少症候群症例の接触者調査(2013.9.24)
8.IASR 特集 日本における重症熱性血小板減少症候群(2014年2月)
9.IASR 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報)(2014.2.25)

国内で初めての患者報告(厚生労働省および山口県より)

厚生労働省 平成25年1月30日 報道発表
中国で近年報告されている新しいダニ媒介性疾患の患者が国内で確認されました