重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、近年、中国の中央部等7省で流行が見られている疾患で、 2011年に初めて原因ウイルス(SFTSウイルス、ブニヤウイルス科フレボウイルス属)が 特定された新しい感染症です。症状は、発熱と消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢など)が 中心で、血液検査所見として血小板減少や白血球減少などがみられます。現在のところ、 有効な抗ウイルス薬やワクチンはありません。 人はウイルスを持ったマダニに刺されて感染します。日本国内では、これまでに複数のマダニ種からSFTSウイルスの遺伝子が検出されており、ウイルス保有率は地域や季節によりますが0〜数%です。 日本においては、2014-16年の感染症発生動向調査では、届出時点の情報で178名の報告のうち35名が死亡しています。日本での致命率は約20%です。 (参考:致命率(case fatality rate)とは、ある特定の病気にかかったと診断され、報告された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合を示したものです。)
1.全国の状況(情報の更新は平成27年12月までとなっています)
(1)国内での発生状況
平成27年の届出です。
平成25年以前の52例はこちら、
平成26年の61例はこちらをご覧ください。
「転帰」は、原則として公表日の状況を記述しており、
最終的な転帰ではありません。
県(県内累計) | 公表日 | 年齢性別 | 転帰 | 発症時期または死亡時期 | |
---|---|---|---|---|---|
114 | 大分県(3) | H27.2.16 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年1月中旬 |
115 | 鹿児島県(10) | H27.4.28 | 70歳代女性 | 死亡 | 平成27年4月中旬 |
116 | 広島県(9) | H27.4.30 | 80歳代女性 | 生存 | - |
117 | 広島県(10) | H27.5.8 | 80歳代女性 | 死亡 | 平成27年4月下旬 |
118 | 宮崎県(20) | H27.5.8 | 60歳代男性 | 死亡 | 平成27年4月下旬 |
119 | 宮崎県(21) | H27.5.8 | 50歳代女性 | 生存 | 平成27年4月中旬 |
120 | 愛媛県(21) | H27.5.15 | 50歳代男性 | 生存 | 平成27年4月中旬 |
121 | 福岡県(1) | H27.5.20 | 30歳代女性 | 生存 | 平成27年5月中旬 |
122 | 高知県(15) | H27.5.26 | 80歳代女性 | 生存 | 平成27年4月下旬 |
123 | 宮崎県(22) | H27.5.26 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年5月上旬 |
124 | 大分県(4) | H27.6.1 | - | 生存 | 平成27年5月上旬 |
125 | 大分県(5) | H27.6.1 | - | 生存 | 平成27年5月中旬 |
126 | 高知県(16) | H27.6.3 | 50歳代女性 | 生存 | 平成27年4月中旬 |
127 | 宮崎県(23) | H27.6.4 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年5月上旬 |
128 | 広島県(11) | H27.6.4 | 70歳代女性 | 死亡 | 平成27年5月下旬 |
129 | 大分県(6) | H27.6.5 | 80歳代男性 | 死亡 | 平成27年5月下旬 |
130 | 山口県(9) | H27.6.10 | 80歳代男性 | 生存 | 平成27年5月下旬 |
131 | 広島県(12) | H27.6.10 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年5月下旬 |
132 | 福岡県(2) | H27.6.11 | 10歳未満女児 | 生存 | 平成27年5月下旬 |
133 | 山口県(10) | H27.6.15 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年5月下旬 |
134 | 山口県(11) | H27.6.15 | 80歳代男性 | 生存 | 平成27年6月上旬 |
135 | 鹿児島県(11) | H27.6.12 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年5月上旬 |
136 | 三重県(1) | H27.6.16 | 70歳代女性 | 生存 | - |
137 | 広島県(13) | H27.6.17 | 70歳代男性 | 不明 | - |
138 | 京都府(1) | H27.6.23 | 80歳女性 | 生存 | 平成27年6月中旬 |
139 | 福岡県(3) | H27.6.26 | 80歳代女性 | 死亡 | 平成27年6月中旬 |
140 | 福岡県(4) | H27.6.30 | 88歳女性 | 死亡 | 平成27年6月中旬 |
141 | 徳島県(10) | H27.7.2 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年5月下旬 |
142 | 香川県(1) | H27.7.2 | 70歳代男性 | 生存 | 平成27年6月中旬 |
143 | 広島県(14) | H27.7.22 | 80歳代男性 | 生存 | 平成27年7月上旬 |
144 | 広島県(15) | H27.7.22 | 70歳代女性 | - | - |
145 | 鹿児島県(12) | H27.7.30 | 60歳代男性 | 生存 | 平成27年7月上旬 |
146 | 鹿児島県(13) | H27.7.30 | 80歳代女性 | 生存 | 平成27年6月下旬 |
147 | 山口県(12) | H27.8.12 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年7月下旬 |
148 | 三重県(2) | H27.8.11 | 70歳代女性 | 生存 | - |
149 | 熊本県(6) | H27.8.11 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年7月下旬 |
150 | 和歌山県(3) | H27.8.13 | 70歳代男性 | 生存 | 平成27年7月下旬 |
151 | 福岡県(5) | H27.8.14 | - | - | - |
152 | 山口県(13) | H27.8.24 | 70歳代男性 | 生存 | 平成27年7月下旬 |
153 | 宮崎県(24) | H27.8.20 | 80歳代男性 | 生存 | 平成27年8月上旬 |
154 | 長崎県(8) | H27.8.27 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年8月上旬 |
155 | 広島県(16) | H27.8.20 | 70歳代女性 | 生存 | 平成27年8月上旬 |
156 | 広島県(17) | H27.9.3 | 60歳代男性 | 生存 | 平成27年8月下旬 |
157 | 石川県(1) | H27.9.3 | 60歳代男性 | 死亡 | 平成27年8月下旬 |
158 | 徳島県(11) | H27.9.8 | 70歳代男性 | 死亡 | 平成27年8月下旬 |
159 | 鹿児島県(14) | H27.9.14 | 50歳代男性 | 生存 | 平成27年8月下旬 |
160 | 山口県(14) | H27.9.17 | 60歳代男性 | 生存 | 平成27年9月上旬 |
161 | 徳島県(12) | H27.9.16 | 70歳代男性 | 生存 | 平成27年8月下旬 |
162 | 福岡県(6) | H27.9.19 | 30歳代男性 | 生存 | 平成27年8月中旬 |
163 | 宮崎県(25) | H27.10.8 | 30歳代男性 | 生存 | 平成27年9月上旬 |
164 | 石川県(2) | H27.10.6 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年9月中旬 |
165 | 長崎県(9) | H27.10.22 | 80歳代男性 | 生存 | 平成27年9月ごろ |
166 | 宮崎県(26) | H27.10.29 | 60歳代男性 | 生存 | 平成27年9月下旬 |
167 | 福岡県(7) | H27.10.30 | - | - | - |
168 | 広島県(18) | H27.11.11 | 80歳代男性 | - | - |
169 | 宮崎県(27) | H27.11.12 | 80歳代男性 | 死亡 | 平成27年10月下旬 |
170 | 高知県(17) | H27.11.18 | 70歳代男性 | 生存 | 平成27年10月上旬 |
171 | 宮崎県(28) | H27.12.10 | 60歳代女性 | 生存 | 平成27年11月下旬 |
172 | 鹿児島県(15) | H27.12.14 | 80歳代男性 | 死亡 | 平成27年11月下旬 |
173 | 京都府(2) | H27.12.14 | 80歳代女性 | 生存 | 平成27年11月中旬 |
(2)県毎の集計
県名 | 生存 | 死亡 | 不明 | 計 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
石川県 | 1 | 1 | 2 | ||
京都府 | 2 | 2 | |||
三重県 | 2 | 2 | |||
和歌山県 | 3 | 3 | |||
兵庫県 | 1 | 1 | 2 | ||
島根県 | 1 | 1 | |||
岡山県 | 3 | 1 | 4 | ||
広島県 | 12 | 3 | 3 | 18 | |
山口県 | 9 | 5 | 14 | ||
徳島県 | 8 | 4 | 12 | ||
香川県 | 1 | 1 | |||
愛媛県 | 13 | 8 | 21 | ||
高知県 | 14 | 3 | 17 | ||
福岡県 | 3 | 2 | 2 | 7 | |
佐賀県 | 1 | 2 | 3 | ||
長崎県 | 7 | 2 | 9 | ||
熊本県 | 4 | 2 | 6 | ||
大分県 | 5 | 1 | 6 | ||
宮崎県 | 19 | 9 | 28 | ||
鹿児島県 | 11 | 4 | 15 | 生存のうち1人はその後死亡。 | |
計 | 120 | 48 | 5 | 173 |
これまでのところ、重症熱性血小板減少症候群は、西日本を中心に発生していますが、 国(厚生労働省研究班)が実施している調査では、患者発生のない地域でも、 マダニの調査や動物(シカ、イノシシ、犬)の抗体調査により、 SFTSウイルスの存在が確認されています。 (参考文献6、 参考文献9) こちらのページ(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布状況) で地図に表していますのでご覧ください。
(3)年齢集計
(4)月別集計
患者の発症月別の集計です。夏、秋としているものは月別不明もの。
発症月が不明の場合は死亡月で計上しています。
参考文献5によると、 ウイルス遺伝子の分析結果からは、中国のウイルスとは遺伝子レベルで若干異なっており、 患者は国内で感染したものと考えられました。
2.山口県の状況(平成30年10月までの状況です)
(1)年齢集計
山口県で報告された患者の年齢階級別の集計です。
(2)年齢別死亡率
山口県で報告された患者の年齢別の死亡率です。
(3)月別集計
山口県で報告された患者の発症月別の集計です。
3.中国の状況
参考文献 1
によると、SFTSと診断された中国中央部・東北部の2010年の患者(154名)は、
年齢層は中高年で(39歳〜83歳)、女性86名、男性68名でした。
ほとんどの患者(150名/154名)が森林・丘陵地に住む農業従事者でした。
発症時期は、多くが5月〜7月(148名/154名)でした。
SFTSウイルスは、国(厚生労働省研究班)の調査で、フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、 オオトゲチマダニ、キチマダニ及びタカサゴキララマダニからSFTSウイルス遺伝子が検出されており、 今のところ患者が報告されていない地域でもSFTSウイルス保有マダニが確認されています (参考文献6)。 中国では、フタトゲチマダニ、オウシマダニからウイルスが検出されています (参考文献1、 3)。
SFTSにかからないためには、マダニに刺されないように注意することが必要です。 マダニの生息するような場所(草むらや藪など)に行く場合には なるべく肌を露出しない服装とし、後で、マダニが体に付着、あるいは マダニに刺されていないかどうかを確認してください。 「マダニ対策、今できること」 (国立感染症研究所)は、マダニ対策について、イラストを用いてわかりやすく説明しています。
マダニは野外に生息する大型のダニです。 屋内に生息するダニ(コナダニ類・チリダニ類など)はこの疾患とは関係ありません。
マダニからの感染のほかには、患者の血液等に直接接触したことによる感染が報告されています (参考文献4)。 今のところ国内では、二次感染事例はありませんが、患者の血液等体液や排泄物は、 感染性があるものとして、十分な注意が必要です。 (参考文献7)。
最近の研究で、SFTSウイルスに感染し、発症している野生動物やネコ、イヌなどの動物の血液からSFTSウイルスが検出されています。このことは、SFTSウイルス感染している動物の血液などの体液に直接触れた場合、SFTSウイルスに感染することも否定できません。
なお、ヒトのSFTSで認められる症状を呈していたネコに咬まれたヒトがSFTSを発症し、亡くなられた事例が確認されていますが、そのネコから咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染したかどうかは明らかではありません。また、動物由来食品(肉や乳など)を食べたことによって、ヒトがSFTSウイルスに感染したという事例の報告はありません。
健康なネコなどからヒトがSFTSウイルスに感染することはないと考えられています。室内のみで飼育されているネコについては、SFTSウイルスに感染する心配はありません。 不用意に体調不良のネコ(飼育されているネコを除く)や野生動物との接触は避けて下さい。マダニ類の多くは、ヒトや動物に取りつくと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日以上)吸血しますが、咬まれたことに気がつかない場合も多いと言われています。 マダニが皮膚に吸着しているのを発見した場合は、できるだけ医療機関(皮膚科) で除去してもらってください。無理に取ろうとして虫体を押しつぶした場合、 マダニの体液が人の体内に入り感染の危険性が増加します。 また、マダニの一部が皮膚内に残ると、化膿することがあります。
マダニに刺された場合は、その後の体調に注意してください。 SFTSの潜伏期間は6日〜2週間程度だといわれていますので、 2週間後くらいまでに発熱等の症状があらわれた場合は、医療機関を受診してください。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について 厚生労働省
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 国立感染症研究所
SFTSについて医療関係者が知っておきたいこと
国際感染症センター(国立国際医療研究センター)
動物由来感染症(ズーノーシス)って何だろう
(県生活衛生課)
1.Fever with Thrombocytopenia Associated with a Novel Bunyavirus in China
Xue-Jie Yu, et al. N Engl J Med 364:1523-1532, 2011
2.Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus, Shandong Province, China
Li Zhao, et al. Emerging Infectious Diseases 18 (6), 2012
3.The Ecology, Genetic Diversity, and Phylogeny of Huaiyangshan Virus in China
Zhang YZ, et al., J Virol 86: 2864-2868, 2012
4.A Family Cluster of Infections by a Newly Recognized Bunyavirus in Eastern China, 2007: Further Evidence of Person-to-Person Transmission
Chang-jun Bao, et al. Clin Infect Dis. 53 (12): 1208-1214, 2011
5.IASR 国内で確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者8名の概要(2013年3月13日現在)
6.IASR 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第一報)(2013.8.29)
7.IASR 山口県の一医療機関における重症熱性血小板減少症候群症例の接触者調査(2013.9.24)
8.IASR 特集 日本における重症熱性血小板減少症候群(2014年2月)
9.IASR 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報)(2014.2.25)