情報発信・公開を効果的に行うための方策の検討(2)
−情報発信・公開業務の仮想評価法による検討−
 
 
山口県環境保健研究センター
溝田 哲,吹屋 貞子,長田 健太郎,珠山 光顕
 
 
Discussions on an Effective Information Publishing (2)
-An Evaluation of Information Publishing by CVM-
 
 
Satoshi MIZOTA・Sadako FUKIYA・Kentaro OSADA・Mitsuaki TAMAYAMA
Yamaguchi Prefectural Research Institute of Public Health
 
 
はじめに
 前回までの調査1)において,「環保研の情報発信・公開」に対する意識の高さが伺えた.このような調査結果を踏まえ,今回は,広報誌やインターネットなど従前の方法に加えより積極的な情報発信・公開(情報業務)を行うことを仮定し,それに割くことの出来る時間をアンケートで訊ね,その時間数により環保研における情報業務に対する必要性や意識の高さを客観的に評価することを試みた.
 
方法
 
1 アンケート調査
 情報業務に割くことの出来る時間(WTW:一週間での提供意志時間提供可能な労力)について,30分,1時間,2時間,3時間,4時間の5種類の調査票(表1)を作成し,その内の1枚をランダムに(パソコンで1〜5の数字の出るランダム関数を用いて)調査対象である当所職員52名に配布した.
 調査票の問1及び問3は,調査票が無作為に配布されているか否かを確認するための項目も兼ねている.特に問1は,出来るだけ控えめなWTWを得るために「担当者になると日常業務以外に時間をとられるので出来るだけ少ない時間を回答しておこう」というバイアスを意識して設定したものでもある.
 
2 アンケート結果の分析
 情報業務について,環保研(職員一人あたり)としてそれに割くことの出来る時間WTWでその評価を試みるため,その代表値を仮想評価法2)を用いて推定した.推定の計算は,文献2及び文献3を参考にして筆者がVisualBasicで作成したパソコン(Windows98)プログラムで行った.
 仮想評価法は,環境経済学の分野で発展したもので,環境の価値を人がそれに支払ってもよいとする金額(WTP)で表して評価しようとする,環境の経済的評価手法である.
 ここではその二肢選択モデルのなかのランダム効用モデルであるシングルバウンド・ロジットモデルを用いた.
 
結果と考察
 
1 調査票の集計結果
 回収率は約73%であった.その集計結果は表2のとおりである.
 
2 調査票及び配布方法について
 調査票の配布が適切であったかどうかをみるために,「提示時間」と「年齢」との関係(表3)及び「担当者になっても良いか否か」と「提示時間」との関係(表4)に関連性があるか否かを適合度検定(χ二乗検定)により検討したところ,いずれも関連性は認められないという結果が得られた.
 この結果から,提示時間の配布は年齢による偏りも担当者になっても良いと思う対象への偏りも認められず適切であったと言える.
 しかし詳細にみると,担当者になっても良いか否かと提示時間との関係において,χ二乗値が他と比べて小さく提示時間が大きいところで「担当者になりたくない」が増えているような傾向が認められる.したがって,提示時間「2時間以下」と「2時間を越える」ものに分けて「提示時間に対するYes・No回答」と「担当者になっても良いか否か」との関連を検討した.その結果,提示時間2時間を超えるところで関連が無いとは言えないという結果が得られた(表5,6).
 この結果の解釈として,
 (1) 担当者になりたくないという対象に,提示時間2  時間を超える調査票が偏って配布された.
 (2) 提示時間2時間を超えるとNoと答え担当者にな  りたくないと考える者が多く,調査票の配布は適切  であった.
 という2つが考えられる.
 調査票の配布が年齢層による偏りが認められなかったこと及び担当者になっても良いか否かによる偏りが全体としては認められなかったことを考慮すると,(1)の解釈よりも(2)の解釈の方が適当であると考えられる.
 仮想評価法は,バイアス(提示金額への反応が質問項目により影響を受ける)を極力おさえるように行うのであるが,問1は調査票の設計に当たり「担当者になると日常業務以外に時間をとられる」というバイアスを意識して設けたものである.これは,出来るだけ低い(控えめな)WTWを得たいと考えたからであり,仮想評価の方法論としては不適切であったかもしれないが,(2)の解釈が適当ということであれば,問1を設定した効果があったものと思われる.しかし,この解釈を確認する客観的なデータは今回の調査からは得られず,あくまでも一つの解釈の域を出ないものである.
 
3 推定結果について
(1) 推定した評価関数
 推定する効用差関数は,文献2)にならい対数線形関数
  ΔV=a+b×ln(WTW)
 を用いた。
 推定係数値は,
  a=15.8364,b=−3.0234  a,b:p<0.05(t値)
 従って,推定効用差関数は
  ΔV=15.8364−3.0234×ln(WTW)
 となり,提示時間に対して「はい」(割くことが出来 る)と答える確率は
             1
  P(Yes)=
      1+exp(−(15.8364−3.0234×ln(WTW)))
 となる.
(2) 推定した情報業務への提供意志時間(WTW)
 WTWとYesと回答する確率との関係を図1に示す.これから,情報業務に割くことが出来る時間の代表値(ここでは中央値を用いた)約 3.1 時間(一人一週間あたり)が得られた.
 図1を詳細に見ると,提示時間30分と1時間及び3時間と4時間においてYesと回答する確率に差が認められない.これは対象者が,これらの時間の間に差をあまり認識していないためと考えることが出来る.その意味では,提示時間の設定が適切ではなかったと言える.このような時間設定にしたのは,我々が,対象者が多忙な固有業務の中で新たに情報業務を行うことは大きな負担になると考え,調査票作成段階でWTWは2時間前後と予想し,4時間という提示時間へのYes回答はゼロではないかと考えていたからである.このようなことは,プレテストを行うことで避けることが出来たと思われるが,今回の調査では対象者数の少なさを考えて行わなかった.プレテストを行うことは,本調査の原則事項でもあるが,今回ような調査対象が限られ少ない場合の方法については今後の課題としたい.
 得られたWTW3.1時間は,我々が考えていた以上に大きかったということであり,日常の多忙な固有業務の中で1日平均約40分という時間を情報業務に割くことが出来ると言う結果は,当所職員の情報業務に対する意識の高さを示すものと考えられる.このことは先の「要因抽出調査」1)の結果を考えれば当然の結果とも言える.
 
まとめ
 環境の経済評価に用いられている「仮想評価法」を利用して,環保研の情報業務に対する意識の高さを客観化することを試みた.その結果,前回までの調査で伺えた情報業務に対する意識の高さを「それに割くことが出来る時間」という客観的な数値として示すことが出来た.
 なお,このような評価は初めてのことでもあり,仮想評価法という方法論の用い方にもやや不適切な面もあったので方法論の選択も含めてさらに検討を行う必要があると考える.
 
終わりに
 現在,前回及び今回の結果を参考にして,環保研のインターネットホームページの試作に取りかかっている.調査研究計画では,平成12年度から14年度の3年計画となっており最終的には「情報発信・公開の行政効果」を検討することになっている.しかし,県の情報スーパーネットワークを基本とする県庁LANも順調に進み環保研も来年度(14年度)からこれに本格的に組み込まれ,これまでのインターネット等の利用環境が大幅に変わることになり調査研究計画の見直しをする必要が出てきた.
 したがって,最終目標であるインターネットホームページを利用したアンケートによる環保研の情報発信・公開についての「情報発信・公開の行政効果」に関する検討は,インターネットの利用やホームページの公開などの体制が整った段階で改めてその必要性などを考えることにしたい.
 しかし少なくとも,これまでの調査で得られた環保研の情報発信・公開の考え方は,現在試作中のホームページに生かせ,それを通じて示せるものと考えている.
 
文献
 
1)溝田哲他:情報発信・公開を効果的に行うための方策の検討(T),山口県環境保健研究センター業績報告,
22(2001)投稿中
2)栗山浩一:環境の価値と評価手法−CVMによる経済評価−,北海道大学図書刊行会,(1998)
3)栗山浩一:EXCELでできるCVM第2版,環境評価フォーラム研究報告書#00-01,環境評価フォーラム, (2000)