1 へい死原因
  2 衰弱魚からの死因の推定
  3 へい死魚からの死因の推定
  4 へい死事故発生時刻の推定
  5 浮上死および沈下死からの推定
  6 へい死魚の種類からの推定
  7 へい死魚の大きさからの推定
  8 へい死魚の口の開閉からの推定

1 へい死原因
 現地調査及び採水試料の分析結果からへい死原因を判断する。

 魚類のへい死原因は様々なものが考えられるが、代表的なものは「酸素欠乏死」、「有害物質死」、「疾病死」であり、これらが複合して作用している場合もある。これらの原因による魚類へい死の特徴は次のとおりである。

酸素欠乏死
 水中の溶存酸素が欠乏すると魚は水面に顔を出して空気を水とともに吸い込み空気中の酸素を利用する(鼻上げ)が、この状態が長く続くと窒息死する。
 エラへの異物の付着や、毒性物質によりエラの組織が破壊されて窒息死する場合がある。

有害物質死
 毒性物質の暴露により起こり、原因物質の濃度、毒性の違いでへい死までの時間が変わるが、一般に即死や短時間のへい死が多い。
 原因物質の流入場所周辺にへい死魚が集中している。またその付近の他の水生生物にも影響を与えている場合が多い。
 へい死魚に毒性物質の種類に応じ特有の変化が見られる。

疾病死
 即死することはなく、へい死までにある程度の時間がかかる。
 体がやせており(頭でっかちに見える)、体表やひれに損傷、潰瘍、出血、欠損が見られる場合が多い。また、体表や口内に寄生虫が付着している場合がある。
 なお、魚病によるへい死は養殖業等で高密度の飼育をする場合に発生するが、自然の河川で発生することは稀である。また、発生しても生息密度が低いことから、他の魚類に対する感染は少ないといわれている。稀に、“うおじらみ”や“穴あき病”に感染したコイやフナ等を見ることもあるが、その個体数は問題とならない。
 このことから、通常の河川においては、魚病によるへい死が発生する可能性は低い。

・その他
 事業所の冷却水のような高温度の水、感電、圧力変化、放射能等により起こる場合がある。

2 衰弱魚からの死因の推定
 衰弱魚が確認された場合は、遊泳状況を観察し「衰弱魚の観察記録」に記録するとともに回復試験を行う。

(1)遊泳状況の観察
 ・狂奔遊泳している
 ・横転
 ・痙攣
 ・水面で鼻上げをしている

(2)回復試験
 清水(被害発生地域より上流の水等)を入れたポリバケツに衰弱魚を放し、横転や、鼻上げ等の症状が回復するかどうか、30分程度観察する。

回  復 溶存酸素欠乏または揮発性物質の混入による被害の可能性がある。
ほとんど回復せず

有害物質などの混入による被害の可能性がある。


衰弱魚の観察による原因検索

3 へい死魚からの死因の推定
 へい死魚を採取した場合、できるだけ現地で魚種、大きさ、外観的特徴を観察し、「へい死魚の観察記録」に記録する。
  外観的特徴
  ・体形
  ・体表の色、粘液
  ・表皮
  ・眼球
  ・エラの色、粘液、出血
  ・口
  ・異物

へい死魚の観察によるへい死原因の推定

4 へい死事故発生時刻の推定
 事故発生から数日経過した場合は、水質が変化し、魚も腐敗するため、原因の究明は困難である。しかし、へい死魚の死亡時刻を推定することが可能であれば、汚染源の特定作業がより容易になる。

(1)外観的特徴からの死亡時刻の推定
 死亡時刻の推定には、現場に残されているへい死魚等の外観的特徴によって推定することができる。ただし、気温、水温、有害物質の濃度等によって外観は変化するため一概に特定することはできないが、おおよその推定方法を示す。

眼球が白濁していて、さらにエラも白濁している場合は、死後数時間から十数時間以上経過している可能性が高い。この場合、内臓が腐敗していることが多く、魚体からの原因究明は困難である。
眼球が黒色でエラが白濁している場合は、数時間以内の事故の可能性が考えられる。
眼球が黒色でエラも赤みを帯びている場合は、死後比較的新しいと考えられる。

外観的特徴からのへい死時刻の推定

(2)鮮度試験による死亡時刻の推定
 鮮度試験紙を用いることでへい死時刻を推定することが可能である。これは、魚介類の鮮度指標として用いられるK値を測定することで、へい死魚の死亡時間を推定する方法である。
 判定は、鮮度試験紙の色変化と色標を比較してK値を求め、そのK値と経過時間の対比図より、死亡推定時間を出す。ただし、K値は魚種、大きさ、水温等の影響を受けることに注意が必要である。

鮮度試験紙を用いた死亡時刻の推定

5 浮上死および沈下死からの推定
 へい死魚が浮上し流されている場合は、死後の時間が経過して腐敗が進行し、内臓にガスが溜まり浮上している場合と、窒息症状を起こし死亡し、浮上している場合が考えられる。有害物質死で、かつ死後の経過時間の短い場合(24時間以内)では、酸素欠乏死の場合と異なりほとんどの魚は下層に横たわる。

6 へい死魚の種類からの推定
 酸素欠乏死や有害物質死の場合、まず、コイやフナよりも先にウグイ、オイカワなどが死ぬ。逆に、オイカワ、ウグイなどが元気でコイが死亡している場合は、かなり以前の事故など他の要因が考えられる。

7 へい死魚の大きさからの推定
 コイの例によれば、へい死したコイが比較的大型で小型が少ない場合は、酸素欠乏死の可能性が高い。これは、大型の魚は小型の魚よりも必要な酸素量が多いことによる。一方、急性毒性の場合は、小型の魚の方が感受性が強く、影響を受けやすい。

8 へい死魚の口の開閉からの推定
 酸素欠乏により死亡した場合は、ほとんどの魚は口を開いて死ぬ。

へい死原因の判断