感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き
原虫の四類感染症
1)はじめに
芽胞形成菌以外の細菌の中で四類感染症に分類されたものは3つの疾患のみである。
2)芽胞形成菌以外の細菌の消毒
芽胞形成菌以外の細菌は消毒薬に対する抵抗性が弱く,ほとんどすべての消毒薬が有効である。
したがって,生体毒性の低い副作用のない消毒薬が適応であり,生体には生体消毒薬を,環境には環境消毒薬を選択する。
(1)器材
第四級アンモニウム塩,両性界面活性剤,次亜塩素酸ナトリウム,消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノールを使用する。
(2)環境
患者環境の床は通常の清掃を行う。局所的な汚染に対して消毒薬が適用される。
両性界面活性剤もしくは第四級アンモニウム塩が選択される。
日常的に手が触れる環境表面はアルコールにて定期的に清拭消毒を行う。
(3)リネン類
80℃・10 分間の熱水洗濯,もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム液に30 分間浸漬消毒をする。
3)疾患の特徴,媒介経路,感染防止
- ブルセラ症
病原体はブルセラ・メリテンシスをはじめとするブルセラ属菌(グラム陰性桿菌)による感染である。
地中海地方で発生し,自然宿主はヤギ,ブタ,ヒツジ,ウシなどの家畜類で,感染動物の血液や肉,非加工乳製品との接触もしくは汚染エアロゾルの吸引で感染する。
症状は,発熱,夜間発汗,体重減少,倦怠感などの全身症状が主体である。
感染防止は標準予防策を適用する。
- 野兎病
病原体は野兎病菌フランシセラ・ツラレンシスを代表とするグラム陰性小短桿菌である。
芽胞を形成しないため,消毒薬に対する抵抗性は弱い。
人獣共通感染で感染した野兎や,野生げっ歯類との接触,解体,調理時に皮膚や粘膜から感染する。
ダニやアブなどの節足動物を介した感染や汚染塵芥,河川水から感染することもある。ヒトからヒトへの感染の確実な報告はない。
症状は感冒様症状で,皮膚や粘膜の潰瘍を伴うこともある。
リンパ節腫大や敗血症を呈することもある。診断は皮内反応,血清凝集反応にてなされる。
感染防止は標準予防策で対応する。
- レジオネラ症
病原体はレジオネラ・ニューモフィラを代表とするレジオネラ属の細菌である。
土壌や水環境中に生息する菌で,塵埃の吸入や水中生息菌のエアロゾルを吸入することにより発症する経気道感染の様式をとる。
重症型がレジオネラ肺炎,軽症型がポンティアック熱といわれる。
肺炎型では,発熱,呼吸困難,頭痛,意識障害,精神神経系症状など,呼吸器症状以外の症状もみられる。
ポンティアック熱は感冒様症状のことが多い。
感染経路は飛沫感染である。クーリングタワー,循環式浴槽,シャワー,加湿器,ネブライザーなどの汚染に注意する。
レジオネラはバイオフィルム中のアメーバに寄生して増殖するが,アメーバは細菌よりも消毒薬に抵抗性なので,バイオフィルムを物理的に除去することも重要である。
クーリングタワーの消毒は,塩素(5〜10ppm)や2〜4%の過酸化水素を2〜3時間循環させる方法がある。
病院内のシャワー設備が感染源であった場合には,65℃以上の温湯を5分間以上流し,蛇口での残留塩素濃度を10ppm 以上に維持する方法が推奨されている。