感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き
芽胞形成菌の四類感染症
1)はじめに
芽胞形成菌の中で,四類感染症に含まれるものは炭疽とボツリヌス症のみである。
2)芽胞の消毒
芽胞には高水準消毒薬の長時間接触が必要である。
高水準消毒薬のうち,芽胞にも有効な消毒薬は化学滅菌剤とも呼ばれている。
グルタラールと過酢酸が該当する。グルタラールの場合には3時間以上の浸漬を行う。
0.3w/v%過酢酸では30 分間以上の浸漬が必要である。
欧米では,1,000ppm の二酸化塩素や6w/v%以上の安定化過酸化水素なども使用されている。
消毒に先立って,洗浄を十分に行い,付着している芽胞の数を減らしておくことが大切である。
炭疽菌の汚染物は滅菌もしくは焼却が基本であるが,消毒を行う場合には特別な対応が必要となる。
過酢酸,二酸化塩素,次亜塩素酸ナトリウムが最も有効とされている。
作業者は防護服を着用して作業に当たらなければならない。
炭疽菌の消毒方法に関しては, W H O 資料の厚生労働省による抜粋要約がある
(http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1116-1g.html)。
しかし,この中の薬剤には日本で市販されていないものもあり,また高濃度の薬剤では作業者への十分な注意が必要である。
3)疾患の特徴,媒介経路,感染防止
- 炭疽
病原体は炭疽菌バシラス・アンスラシスであり,土壌中に存在し,創傷への直接的な付着あるいは吸入や経口的に芽胞が体内に侵入して発病する。
芽胞の侵入門戸により,皮膚炭疽,肺炭疽,腸炭疽に分けられる。
ヒトからヒトへの感染はない。
特に重篤な肺炭疽では,発熱,悪寒,頭痛などのインフルエンザ様症状に加えて,呼吸困難からチアノーゼを呈して昏睡となる場合もある。
感染媒体は家畜,感染動物の加工品,昆虫の刺傷による皮膚感染,大気中の芽胞の吸入などである。
感染防止は標準予防策を徹底する。
- ボツリヌス
病原体はボツリヌス菌クロストリジウム・ボツリナムである。
病型は食餌性ボツリヌス症(食中毒),創傷ボツリヌス症,乳児ボツリヌス症,成人腸管定着型ボツリヌス症,その他の5つに分類される。
いずれにおいても,本菌が産生する菌体外毒素による神経機能の障害のために弛緩性麻痺が生じ,嚥下困難,呼吸麻痺などの症状を呈する。
食餌性ボツリヌスは食品中でボツリヌス菌が増殖して産生した毒素を経口的に摂取することによって発症する。
創傷ボツリヌスは,創部(または注射部位)から侵入した菌が皮下組織などで増殖し,産生した毒素により発症する。
乳児ボツリヌス症と小児および成人の腸管定着型(乳児型)ボツリヌス症は,芽胞が混入した食品を摂取することにより,腸管内で芽胞が発芽・増殖し,産生した毒素の作用によって発症する。
汚染された蜂蜜が乳児ボツリヌス症の原因になることがあるので,1歳未満の乳児には蜂蜜を与えるべきでない。