感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き
スピロヘータの四類感染症
1)はじめに
螺旋状の形体で,活発な運動を行う菌群である。トレポネーマ属,ボレリア属,レプトスピラ属などがある。
トレポネーマ属はヒトや動物に寄生し,梅毒などの病原体となる。ボレリア属は回帰熱,ライム病の病原体で,シラミ,ダニを介して感染する。
梅毒は五類感染症に分類されている。
2)スピロヘータの消毒
消毒薬に対する抵抗性は弱い。低水準消毒薬で対応する。
0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.1〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩を使用する。
熱を使用する場合では,トレポネーマ属は42℃以上で速やかに死滅する。
4℃では3日間で感染力を消失する。レプトスピラ属も熱には弱く,50〜55℃・30分間の加熱で死滅する。
環境の消毒が必要な場合は,0.1〜0.5w/v%両性界面活性剤,0.1〜0.5w/v%第四級アンモニウム塩を使用する。
リネン類は熱水消毒(80℃・10 分間),もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム溶液に30 分間以上浸漬して消毒する。
3)疾患の特徴,媒介経路,感染防止
- 回帰熱
病原体はスピロヘータ科ボレリア属のボレリア・レカレンチス(回帰熱ボレリア)などである。
シラミやダニが媒介する。日本にはこの十数年間において感染患者の報告はない。
症状として,発熱,頭痛,筋肉痛,脾腫などが現れるが,高熱が数日続いて,いったん解熱後に1〜2週後にまた発熱する。これを繰り返すため,回帰熱と呼ばれる。
ヒトからヒトへの感染はないが,患者の血液には注意が必要である。そのため標準予防策で対応する。
- ライム病
病原体として,スピロヘータ科ボレリア属のボレリア・ブルグドルフェリなどが確認されている。
野ネズミや小鳥が保菌動物となっており,吸血したマダニにより媒介される。
日本でも数百件の報告がある。マダニの刺咬部を中心に遊走性紅斑が出現する。
その他,発熱,筋肉痛,悪寒,倦怠感などのインフルエンザ様症状がみられることもある。
感染防止は標準予防策をとる。
- レプトスピラ症
病原体はレプトスピラ・インテロガンスなどであるが,230 種以上もの多くの血清型が存在する。
黄疸出血性レプトスピラ症はワイル病ともいわれる。
秋季にみられるレプトスピラ症は,地方病として秋疫(あきやみ)などの病名がついている。
ドブネズミ,野ネズミなどのげっ歯類を中心に,イヌ,ブタ,ウシなどの多くの哺乳動物が保菌動物となる。
保菌動物の尿に汚染された水や土壌を介して,皮膚から体内に侵入して感染する。
ヒトからヒトへの感染はまれである。
レプトスピラ症は,発熱,悪寒,頭痛,筋痛,結膜充血などの初期症状があり,黄疸出血性レプトスピラ症ではその後,出血,黄疸,腎不全などがみられる。
感染防止は標準予防策で対応し,特別な消毒は必要ない。