感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き
リケッチアの四類感染症
1)はじめに
リケッチアは細菌より小さく,動物の細胞内で増殖し,無細胞の人工培地では発育できない。
発しん性の熱性疾患である。通常は節足動物の腸管に寄生し,ダニ,シラミ,ノミなどによって媒介される。
感染予防には,媒介動物であるシラミ,ダニ,ノミなどの駆除とともに,衛生環境の改善と清潔保持が大切である。
つつが虫病においては,ツツガムシの吸着に注意するほか予防策はない。
2)リケッチアの消毒
細胞外のものは一般に不安定である。リケッチアは熱に弱く56℃の加熱で容易に死滅する。
消毒薬に対する抵抗性も弱く,アルコールなどで消毒できる。
また,リケッチアは脆弱な外被膜を有しており,超音波処理30〜60 秒処理で破壊される。
3)疾患の特徴,媒介経路,感染防止
- Q熱
病原体はコクシエラ・バーネッティで,媒介動物はマダニ,シラミ,ハエなどであるが,ヒトへの感染は保菌宿主であるウシ,ヒツジ,ヤギ,ネコなどの動物由来である。
汚染獣皮や毛皮類の塵埃の中の病原体を吸入することにより経気道感染する。
また,汚染された非殺菌生乳を介しての経口感染もある。
その他,感染動物の尿や糞便も感染源になりうる。
症状は,悪寒戦慄を伴う急激な発熱,頭痛,筋肉痛,全身倦怠感などであるが,胸痛や粘稠喀痰の排泄,髄膜刺激症状を呈することもある。
- つつが虫病
病原体はオリエンチア・ツツガムシで,自然界での宿主はツツガムシである。
このツツガムシは,土壌中を生息場所としている。
ツツガムシの幼虫がリケッチアを保有して,ヒトの皮膚に咬みついた部分から感染する。
主症状は発熱と頭痛,悪寒,筋肉痛で,発しんは第5病日までに出現し,刺咬創部位の皮膚は,黒褐色の痂皮を形成する。
感染防止は標準予防策にて行う。
- 日本紅斑熱
病原体はリケッチア・ジャポニカで,紅斑熱リケッチアの一種である。
感染したマダニの媒介によってヒトに感染する。
保菌宿主はネズミ,イヌ,ウサギである。
主症状は,刺された後に高熱と頭痛および刺し口の紅斑をきたす。
感染防止は標準予防策にて行う。
- 発しんチフス
病原体はリケッチア・プロワツェキィイ(発しんチフスリケッチア)で,感染したコロモジラミの媒介により,ヒトに感染する。
病原体はコロモジラミの消化管(中腸)の細胞内で増殖し,細胞が破れて病原体が消化管内腔に広がり,糞と一緒に排泄される。
シラミに刺されただけでは感染せず,刺された痕を掻くと刺し口に同時に付着している糞の中のリケッチアが擦り込まれて感染する。
また,排泄物を塵埃として吸入して感染することもある。保菌宿主はヒトとムササビである。
感染防止は標準予防策にて行う。